2022年スピリッツ市場トレンド紹介
ここしばらく酒類業界で起きていた変化が、コロナによって想定以上のスピードで進んでいます。嗜好の世代間ギャップ、EC購入、規制環境など、多岐にわたりますが、各メーカーはそれに対応し、魅力的な新商品を次々と展開しています。見方によっては、コロナは酒類業界にとって革新的でポジティブな環境を提供しているようにも思われます。
「ロレックスやBMWを買えなくても、80ドルのスコッチを買うことはできる。」
デイビッド・オズゴ(米国蒸留酒協会)
プレミアム志向からドリンク提供時の演出まで。スピリッツ・マーケティングを変える新たな消費者行動とは?
X世代(1960年代〜1980年生まれ)とZ世代(1997年以降生まれ)では、お酒の嗜好が大きく異なります。この違いは、原料調達から、製造、マーケティング、そして販売に至るまで、スピリッツ業界に大きな影響を及ぼしています。コロナをきっかけに世代間ギャップが商品展開に与える影響が加速し、多くのメーカーが積極的な新商品(RTD)投入を行っています。
なぜプレミアム志向が加速したのか?
プレミアム志向は、スピリッツ、ビール、ワインの3つのカテゴリーすべてにおいて、ここしばらく続いている傾向です。特にスピリッツについては顕著で、巣篭もり生活での節約が続いていることもあり、多くの消費者がちょっとした贅沢や満足感を求めるようになっています。米国蒸留酒協会のチーフエコノミスト、デビッド・オズゴの言葉を借りれば、「人はロレックスやBMWを買えないかもしれないが、たまに80ドルのスコッチを買う余裕はある」ということかもしれません。 (BevAlc Insights)
プレミアム商品の継続的な成長を支える要因は?
- プレミアム志向の主役はミレニアル世代とZ世代です。アルコールに関するある調査では18~34歳の54%が高価格帯の商品を選ぶと回答したのに対し、55歳以上ではわずか35%に留まっています。 (Adeo Group)
- 世界的に所得が伸びている。中国やインドなどの急成長市場では、急増する中間層がより高品質な飲料を求めるようになっています。
- 消費量が減少している。イギリスでは現在、成人の約20%がアルコールを消費せず、47%が消費量を減らしています。世界的にZ世代はミレニアル世代に比べて一人当たりの飲酒量が、さらに20%少ないというデータもあります。(Business Insider)
プレミアム商品とドリンク提供時のプレミアム演出の相乗効果
消費量が減っている中で、以前よりもお酒への支出余裕があるとすれば、当然今まで以上に洗練され贅沢な外飲み体験を期待するでしょう。カクテルを提供する際のプレミアムな演出は、高級スピリッツ・メーカーにとって軽視できない重要な役割を担っています。そして、それはリアル体験だけに留まらず、デジタル体験にも及んでいます。
ミレニアル世代の69%は、食べる前に食べ物や飲み物を写真に撮り、SNSに投稿します。特にカクテルは最も投稿されやすいものの一つで、TikTokによると2021年上半期に「カクテル」(Club Mirror)のハッシュタグは20億件近くに上ったといいます。経済誌『Forbes』は、「インスタグラムでの口コミ効果を期待して、バーテンダーが写真映えを意識したドリンクを考案することは当たり前です。以前は物珍しがられていたようなものが、今では大きな差別化として成り立っています」とも言及しています。
そのため、各メーカーは、カクテルにミックスしたスピリッツの視認性を高める新たな方法を模索しています。多くの場合、グラスやガーニッシュ、カクテルの色などを工夫して、自社製品を目立たせます。Ripplesを活用しているメーカーも多く、魅力的な消費者体験に貢献しています。
変化する消費者の嗜好に合わせた商品開発
ビールはもはや男性向けのお酒でもなければ、カクテルが女性向けのものでもありません。市場調査会社カンターによれば、イギリス人女性は2010年に比べて年間4,000万杯も多くのウィスキーを飲んでいるそうです。男性の消費量が6%減少しているのに対し、15%の増加です。さらに興味深いことに、全体の20%がコロナでの巣篭もり生活以前には飲まなかったようなお酒を試したがっているともいいます。
消費者の好みが変化している中で、各メーカーは新たなファンを獲得する機会に恵まれています。マーケティング戦略を見直し、これまでアプローチしてこなかった消費者セグメントの取り込みを強化するタイミングではないでしょうか。
嗜好の多様化に伴い、メーカーの商品展開にも変化が起きています。低アルコール商品とノンアルコール商品はその代表的な例です。特にZ世代は健康意識が高く、酔った勢いで自分が不用意にSNSに投稿されることを避けるため、アルコール消費量を減らす傾向にあります。低アルコールやノンアルコール商品はそんなニーズにこたえ、大きなシェアを獲得しています。グーグルは、ノンアルコールカクテルの新造語である「モクテル」というワード検索が2022年には58%増加すると予測しています。
各メーカーは、付加価値のある「外飲みモクテル体験」を提供するために既成概念にとらわれない発想が必要とされています。
コロナが2022年のスピリッツ・マーケティングにもたらす影響は?
長引くコロナ禍での巣篭もり生活の中で消費者行動にも変化が出てきています。多くの人がデリバリーサービスを利用するようになり、今までよりも高級なお酒を買って、お気に入りのカクテルを自宅で楽しむようになりました。社会生活の再開に伴い、飲食店では自宅で再現できない付加価値のある体験を提供することが必要不可欠とされています。
飲料とデジタルの融合
飲食業界はこれまでデジタル化への取り組みが緩やかでしたが、コロナが始まって以降、そのスピードが加速しています。オンラインで簡単に注文や支払が可能になりました。デジタルメニューを使えば、ドリンクをお客様の好みにカスタマイズすることも簡単です。今まで以上にお客様の好みに応えられるサービスが可能となってきています。
海外旅行に行くことが難しい中、「ギネスで世界を旅しよう」というキャンペーンが韓国で実施されました。アプリ上にセルフィーや好きな写真をアップロードすると、選択した写真と好きな旅行先のデザインを組み合わせ、簡単にビール泡の上にプリント。自分だけの特別なカスタマイズ・ギネスが飲食店で提供されました。ビールを楽しみながらひとときの旅行気分を楽しむ消費者の姿がSNSで拡散されました。
アプリを使ってビールやカクテルをブランディングしたり、新しい消費者体験を作ったりすることは、一見難しそうに見えて意外と簡単にできるのです。
特別な外飲み体験が勝利の鍵
いかがでしたか? コロナを経験した消費者は、今まで以上に外飲み体験に高い期待を持っています。スピリッツメーカーが売上拡大を図るためには、飲食店の現場でこれらの消費者ニーズをいかに実現していくかということが課題です。そのための柔軟性とクリエイティビティが求められているようです。